
フィリピン(TESDA)と日本の介護人材教育における違いは、両国の社会課題と「介護」という仕事に対するとらえ方の違いを表しています。
ミンダナオ島の視察で感じられた「熱気」の正体を、介護教育の仕組みからみてみます。
1. 介護教育の設計思想:パスポートか、ライセンスか
フィリピンのTESDAが提供する介護教育は、一言で言えば「世界へ飛び出すためのパスポート」です。
かたや日本の教育は「国内の公的基準を満たすためのライセンス」という色彩が強くなります。
フィリピン:TESDA「Caregiving NC II」
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短期集中・実技特化: 約半年(786時間)のカリキュラムで、食事・排泄介助だけでなく、バイタルチェック、幼児・高齢者・障害者ケア、さらには「調理」や「洗濯」まで含めた包括的な家事・ケアスキルを叩き込みます。
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「海外仕様」の教育: 卒業生の多くが日本や中東、カナダなどへの出稼ぎを目指すため、教育内容が国際標準(ホスピタリティ重視)に準拠しています。
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行政の役割: 貧困層の若者が「無一文からでも、半年で外貨を稼げるプロになれる」よう、受講料無料+給付金という形で行政が強烈に背中を押します。
日本:介護福祉士養成・初任者研修
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体系的・理論重視: 専門学校等での2年間の教育(介護福祉士)が王道です。医学的知識、社会福祉制度、倫理など、座学のボリュームが大きいです。
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無資格からの入職も一般的: 日本では「資格がなくても現場で働きながら学ぶ」ことが許容されており、教育の主導権が「学校」よりも「採用した介護施設(企業)」に委ねられているケースが多いです。
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行政の役割: 学費の貸付制度(5年働けば返済免除など)はありますが、TESDAのように「行政が個人に直接スキルを教える」というよりは、民間や学校などの事業者を「補助金で支援する」形がメインです。
2. 比較まとめ:介護分野における3つの決定的違い
| 比較項目 | フィリピン (TESDAモデル) | 日本 (国内養成モデル) |
| 教育の単位 | 「Caregiving NC II」(単一の強固な基準) | 初任者研修、実務者研修、介護福祉士(段階的) |
| スキルの幅 | 介護+看護補助+家事全般 | 身体介助+専門的ケア(家事は限定的) |
| 若者の動機 | 階層上昇の手段(家族を養う・海外へ) | 社会貢献、または「他に選択肢がない」消極的選択 |
| 行政の立ち位置 | 「育成」の主体者(直接的なスキル提供) | 「制度」の運用者(資格認定と施設補助) |
3. なぜミンダナオの支援が「新鮮」に見えたのか
視察で感じられた新鮮さは、以下の2点に集約されるように思いました。
① 「自立」へのスピード感と行政のコミットメント
日本では、若者が社会人教育を受ける際「自分探し」や「適性」を重視する時間的猶予があります。
しかし、ミンダナオのような地域では「今日食べていくためのスキル」が死活問題です。
行政(TESDA)が、就職に直結する「特定の型」を短期間で叩き込み、即座に市場(海外含む)へ送り出すという「最短距離の自立支援」を行っている点が、日本の緩やかなキャリア支援とは対照的です。
② 「介護」の社会的ステータスの作り方
日本では介護職の低賃金や重労働が問題視されがちですが、フィリピンではTESDAの認証を得ることで「熟練労働者(Skilled Worker)」という明確な社会的地位が得られます。
行政が「この教育を受ければ、あなたは国の誇りとして世界で戦える」というポジティブな物語を若者に与えている点は、非常にパワフルに感じます。
4. 日本がフィリピンから学べる視点
日本の「入社後に企業が育てる」モデルは、企業の教育余力がなくなるにつれ、若者の「スキルの空白」を生むリスクを抱えています。
ミンダナオ島での視察から、「『実技教育』に深く踏み込み、若者に武器(資格と自信)を持たせてから社会へ放流する」役割まで範囲を広げることも、日本の教育行政は検討してみてもよいのではと感じました。
最後までお読みいただきありがとうございました。





