
先日、フィリピンのミンダナオ島へ視察に行く機会があり、興味深く新鮮な気づきがたくさんありました。
現地の行政(州政府やTESDA)が若者のスキル習得に直接介入し、具体的な「食い扶持」を与えようとする姿勢は、日本の教育システムとは対照的です。
フィリピンのTESDA(技術教育技能開発庁)による支援と、日本の若者向け教育・就労支援の違いを、「スキルの習得タイミング」と「国家の役割」という観点から比較してみました。
1. 根本的な構造の違い:スキル先着か、ポテンシャル先着か
フィリピンのシステムは、「まずスキルを証明(認証)してから市場に出る」というジョブ型・資格社会です。
対して日本は、「まず組織に入り、中で育つ」というメンバーシップ型・OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)社会がベースになっています。
TESDA(フィリピン)の特徴
-
国家資格(NC)の重視: 溶接、調理、介護、ITなどの職種ごとに「NC I〜IV」という国家資格があり、これを取得することが就職(特に海外就労)の絶対条件です。
-
行政が「職業訓練校」を運営: TESDA自体がトレーニングセンターを運営、あるいは民間校を認定し、低所得層でも無料で学べる奨学金制度が非常に充実しています。
-
「海外で売れる人材」の育成: 外貨獲得が国策であるため、語学(英語・日本語等)とセットで、世界標準の技術を教えるのが基本です。
日本の現状
-
学校は「キャリア教育」: 大学や高校は、自己分析や面接対策などの「就職活動(マッチング)」の支援は手厚いですが、実務スキルは「会社に入ってから教わるもの」という前提が強いです。
-
企業内教育(OJT)への依存: 企業が自社の文化に合わせた教育を行うため、学校教育と実務の間に「スキルの空白期間」が存在します。
-
公的職業訓練の立ち位置: 日本の公共職業訓練(ハロートレーニング)は、主に「離職者」や「再就職者」のためのセーフティネットという側面が強く、新卒の若者が積極的に利用する文化はまだ薄いのが現状です。
2. フィリピンと日本の比較表
| 比較項目 | フィリピン (TESDAモデル) | 日本 (新卒一括採用・OJTモデル) |
| 支援の主眼 | 即戦力スキルの習得と資格発行 | 組織へのマッチングとマナー教育 |
| 習得の場 | 公的な職業訓練センター・認定校 | 入社後の企業内研修(OJT) |
| 評価の指標 | 国家資格(National Certificate) | 学歴、ポテンシャル、社内評価 |
| 主な目的 | 貧困削減、海外就労による外貨獲得 | 国内産業の労働力維持、終身雇用 |
| 行政の役割 | 教育カリキュラムの提供者(実技中心) | 雇用維持のための補助金・制度設計 |
3. なぜフィリピンの行政はこれほど積極的なのか?
ミンダナオ島での行政支援が新鮮に感じられた背景には、フィリピン特有の「労働輸出国家」としての戦略があります。
-
「スキル=生存戦略」: フィリピンでは国内の産業が十分に育っていない地域も多く、若者が生き抜くためには、国が認めた「どこでも通用するスキル」を身につけ、マニラや海外へ飛び出す必要があります。
-
行政による「品質保証」: 海外の雇用主(日本、中東、欧米など)に対して、「この若者はTESDAが認めた技術を持っています」と国が保証することで、若者の価値を高めています。
-
ミンダナオの特殊性: 紛争や貧困の歴史があるミンダナオでは、行政がスキル支援を行うことが、武装勢力への加入を防ぎ、地域社会の安定化を図る「平和構築」の手段にもなっています。
4. 日本の変化と今後の課題
近年、日本でも「リスキリング(学び直し)」が推奨され、ジョブ型雇用の導入が進むなど、少しずつフィリピンに近い(=入社前にスキルを明確にする)方向に動き始めています。
しかし、日本はまだ「何ができるか(Skill)」よりも「どこの組織に属しているか(Organization)」を重視する文化が根強いように感じます。
TESDAのように「行政が若者に実技を教え、資格を持たせて世に送り出す」という仕組みは、まだ専門学校や一部の工業高校などに限定されています。
気づきのポイント: 「若者の個人の力を直接的ボトムアップしようとする熱量」と、日本の「完成された既存の組織に若者を適応させるシステム」の違い
最後までお読みいただきありがとうございました。





